潜水日記

思考の記録です。

夕暮れ時、ブルーブラック

 久々に早く帰ることができそうだった。

 今日の天気は晴れなのか雨なのか、暑いのか涼しいのか。働いているとその辺の認識が自分の中で曖昧になっていく。

 ビルの自動ドアを抜け、外の空気に肌が触れたとき、おもったよりひんやりとしていてそのことに私は驚いた。そして次の瞬間フッと笑みがこぼれてしまった。

 このまままっすぐ家に帰るのは惜しい。空を見上げると主導権が昼から夜にわたっている真っ最中で、やわらかくなった紅が青っぽい灰色の空を染めていくような色合い。

 駅へと流れる人混みから外れ私は歩き始める。Google Mapを立ち上げ始点と終点を決める。時間にして47分、距離にして3km弱といったところか。足元に目を向け履きなれたパンプスを点検し、それぐらいの距離なら大丈夫だろう。顔をキッと正面に向けて改めて一歩を踏み出す。

 風が私の後ろから抜けていく。今年は春先から夜の涼しさを味わう機会が多くて嬉しい。昼と夜の合間を私は歩いていて、そのことが何故か私を高揚させる。歩けば20分前の仕事の内容はどこかへ吹き飛び、さらには私が誰であるかとか、今の社会情勢はこんな風でとか、色々なことがぼやけていく。あるのは私の足と歩道と空だけだ。

 白か黒か、好きか嫌いか、敵か味方か、良いか悪いか。

 極端な二項対立の挟間で少々息苦しさを感じることがある。それならば割り切れない夕暮れの空の下を歩けばよくて、いつまでも歩くことを好きであれたらいいなと思う。この淡いグラデーションを楽しみたい。

 日が落ちて周囲が暗くなっていく。世界は空の色と均一になりつつあって、その色を私は上手く表現することができない。私が知っている言葉で一番近いのは、ブルーブラックだ。今使っている万年筆のインクもブルーブラック。私はこのことを日記帳に書くだろう。ブルーブラックのインクで。

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