ベランダの実験室

思考の記録です。

「いつかあの街に行きたいと思うのは何故ですか」

映画「千と千尋の神隠し」で私が一番好きなセリフは、海が月明かりに照らされ黒と青の色が美しく幻想的な夜のシーンのセリフだ。

おれいつかあの街に行くんだ。こんなとこ絶対にやめてやる。

リンがばっさりと言い放った言葉。初めてこれを聞いたとき、私はカルチャーショックを受けた。びっくりした。この一言は当時の私にとって大きな衝撃をもたらした。以来、このセリフやこのシーンは覚えている。

 

千と千尋の神隠し」のリンという登場人物は非常に魅力的だと思う。最初こそ千に対してあたりが強かったけれど、初対面の気まずさと困惑が和らげば、リンの天性の面倒見の良さが途端に現れる。「姉御肌」というのはリンにぴったりな言葉だ。要領もよく機転もきく。湯屋で働く人々は優秀そうだなと思うのだけれど、リンも然り。だから、私は驚いたのだ。

 

リンの言葉で知ったのは「人間とは北極の海にそびえたつ氷山のようなものだ」ということだ。白く立派にででーんと海に鎮座する氷山は、全体の一部に過ぎない。冷たい海に潜れば、見えない氷の塊が目の前に現れるだろう。

人間も同じように見えない部分がある。

面倒見がよくてきぱきしていて、ばっさりと喋る。困った人は放っておかないし突然のアクシデントにも柔軟に対応する。オクサレ様事件でも千をサポートして、で、「おれいつかあの街にいくんだ」である。はー。

うまく言えないけれど。リンの「おれいつか」発言にかなり衝撃を受けている自分がいて、それは「出し抜かれた!!!」という感覚に近い。そう自覚して再びショックを受ける。別に例えると、いつのまにか修学旅行の班決めが私以外の人間だけで決まっているような感じ。あーこれはショックだ。

「みんな」、考えるところで考えているんだ。私の知らないところで。私を置いてけぼりにして。そういう気持ち。

 

 

私は「ああ、あなたの言っていることよくわかるよ」という経験に乏しい。うまく自分の内面を人に伝えられないし、共感された経験が少ない。同時に、私も本当に誰かの考えに共感することは少ないのかもしれない。

私が見ているあなたは、あなたという氷山の一角に過ぎない。この事実を目の当たりにしたとき、それでも自分は未知なる氷山に果敢に切り込みたいと意気込むのではなく、では登るのをやめよう、と考える人間だった。 

 

私はリンという人物像に好意的な印象を抱いていたし、一抹の寂しさはあるのだけれど、どうしてあの街に行きたいと思うのか、知りたいなと思っている。